SCENERY

その壁がなくなれば、世界がもっと広がります 

2009.10.18[日] キンモクセイの頃

ある秋の日の午後、とあるご婦人が来店された。
メニューを見ながらしばし考えこみ、相談を受けた。
「ガンに効く中国茶はありますか?」

ロ・ヴーで仕事を始める前、私は旅行関係の仕事をしていた。
主な仕事は、パスポートとビザ関係。
普通の観光で海外旅行に出かける場合、日本のパスポートを
持っていれば概ね問題はない。
しかし、駐在員、駐在員の家族、取材、商用、留学、プロ
スポーツ選手の大会出場、そして外国籍の人‥、ビザを取得する
必要のある人は、私たちが思っている以上に多い。

外国籍の人で初めてビザの申請をする場合、不安と憤り、
そして半ばあきらめの表情で私を訪ねて来た人も少なくない。

いろいろな話を聞きながら書類を整え、特に問題がなさそう
であれば彼らに言葉をかける。
「たぶん大丈夫ですよ。1週間くらいでビザがおりると
思います。」
逆に厳しい状況の時は
「ちょっと難しいかもしれませんが、一緒に頑張りましょう。」

こうして、お客さまと一緒に歩んできたのだ。

「中国茶」と言うその特別な響きからか、過去にも「痩せるお茶」
や「血圧の下がるお茶」などといったリクエストを頂くことがあった。
しかし今回の場合は、今までのどれにも当てはまらない。

更にその女性の言葉は続き「ガンに効く中国茶があるらしい」
という話をどこかで聞いたらしいのだ。
本人ではなく友人の話ということだが、すでに抗ガン剤の効果も
認められず、どうすればよいのか途方に暮れていたところに
その中国茶の話を知ったとのことだった。
「名古屋だったら見つかるかもしれない。ガンに効く中国茶を探して。」


一瞬、私の頭の中に2つのお茶の名前が浮かんだが、すぐに
それを打ち消し、しばらく考えて、軽々しい言葉を口にすべき
ではない、人の生命に関わることなのだ、と決心した。
第一、そのような発言をボスが許すはずがない。

切羽つまった、すがるような瞳で見つめられて、言葉に詰まった。
藁にもすがりたいと思っている人に対して、何を言うべきか。
何から切り出せばよいのか。
抗ガン剤が効かないという人に対して、私にいったい何が
言えると言うのだ。


相手は私の答えを待っている。
意を決してゆっくりと伝えた。
「私の勉強不足かもしれませんが、ガンに効く中国茶があり、治る
という話は聞いたことがありません。」

相手は簡単に引き下がるわけがなく、根掘り葉掘りいろいろ
質問をしてくる。
それに対して、もし自分が逆の立場だったらどうするだろう
と考えながら言葉を続けた。
「大丈夫ですよ」とも「がんばりましょう」とも言えず、心が痛んだ。

そして「もし、それを飲むことによって気持ちが落ち着くので
あれば、試してみる価値はあると思います」とだけ、私の
意見を伝えた。
救いを求めて差し伸べられたその手を、握りしめることもできず、
自分の無力さを感じながら。

ロ・ヴーではそのお茶を扱っていないし、扱う予定もない。
そういうお客さまは、こちらの言い値で「それ」を購入するのだろう。
だが、それだけは絶対にしてはならない。
確たる根拠もないままに、決して許される行為ではない。
これは、ボスの、そしてロ・ヴーの信念でもある。
中国茶は薬ではないのだ。

その女性の帰り際、ネットで探してみてはどうかと提案
してみた。彼女は「インターネットで販売しているものは、
ニセモノが多そうですよね。ニセモノでは意味がないんです。」
と消えいりそうな声で言った。

これで良かったのだろうか?
何かもっと、言うべき言葉があったのではないか?
自問自答が続く。

街では、ふくらみかけたキンモクセイのかすかな香りが
漂い始めていた。
私は、せつないような、泣きたいような気持ちになった。

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