SCENERY

その壁がなくなれば、世界がもっと広がります 

2008.10.25[土] 100年の後(のち)

「十年をひと昔というならば、この物語の発端は今からふた昔半も
まえのことになる」。
壺井栄著の『二十四の瞳』の印象深い冒頭の一節だ。

英語でも10年を「one decade」というように、10年を一区切りに
するのは万国共通の考え方なのだろうか、と思うことが時々ある。

最近知ったのだが、明治屋が発行している『嗜好』という
小冊子がある。
この冊子、約10cm×18cmというコンパクトなサイズながらも、
世界の食文化や食習慣についてや、自分ではまず訪れることが
できないような地域、例えばパタゴニアやヒマラヤの風景や
ブータンの食事の風景など、毎回非常に充実した内容が、
惜しげもなく紹介されているようだ。

明治41年(1908年)から年4回程の頻度で発行されていたらしい
のだが、ある人から紹介してもらうまで、その存在すら全く知らな
かった。
明治屋には何度となく訪れたことがあるはずなのに、発行される
時と買い物のタイミングの問題なのか、それともレジの横に
置いてあることに気が付かなかったのか。
いずれにせよ、知らなかったこと自体が不思議でならない。


9月下旬のある日のこと、たまたま明治屋の近くに行くことが
あった。
そういえばと思い立ち、9月15日発行の『嗜好』を入手すべく店に
入ってみた。
店内をグルグルと歩き回り、レジ付近にも冊子があるかどうか目で
探してみたが、残念ながらこの時は見つけることができなかった。

そしてつい最近のこと、欲しい食材があって、明治屋を訪れる
機会があった。
「今日は、買い物があるから大丈夫」心にそう言い聞かせて、レジで
思い切って聞いてみた。
「明治屋さんで発行されている『嗜好』という冊子があると思うん
ですが…」。
するとお店の人が申し訳なさそうに、あの冊子は明治41年から
発行していて今年でちょうど100年になること。そしてその100年を
一区切りに、休刊することになったことを教えてくれた。

とても充実した内容で本当に良い冊子だったのに、それはとても
残念だということを伝えたら、他にもそうおっしゃるお客さまが
何人もいらっしゃるのだと言うことだった。

よほど私が落胆した様子だったのか、店長と思われる男性が
「最終号が1冊残っているかもしれませんから、ちょっと探して
来ましょう」と言ってくれた。

明治屋では、100年が一区切り。10年が一区切りではない。
こういう時、老舗が老舗である故の、その風格を垣間見ること
ができるのだ。
そんなとりとめのないことを考えながら、待つこと約10分。
少し誇らしげに戻っていらした店長のその手には『嗜好』が
あった。
「これが『嗜好』の最終号となります。どうぞお持ち下さい」。

『嗜好 585号』
そういって手渡してくれたのがこれ。

100年分の歴史の中の、唯一私の手元にやってきた1冊。
手渡された冊子には『嗜好 585』と書かれていた。
ざっと目を通したところ、表紙の写真は、明治41年4月 創刊号
の表紙のものだということだった。
裏表紙には「平成20年6月15日発行」とある。

ほんの指先がふれ合うくらいの、ほとんどすれ違いになりそうな
接点だったにも関わらず、こういう巡り合わせというのが本当に
あるのだ、と思う。

今、奇跡のような巡り合わせで私の元にある冊子『嗜好』最終号。
すぐに読んでしまうのではなく、100年分の思いを馳せて、しばらく
は眺めて過ごすことにしよう。

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