水鳥のごとく

ロ・ヴー

『仕事は水鳥のごとく』
何年か前、何かの記事に銀座・和光の社長の言葉として
載っていた。
「水面に浮かぶ水鳥は非常に優雅に見えるが、その実、水面下
では溺れないよう休むことなく一生懸命水掻きを動かしている。
我々の仕事もかくありたい」というような内容だったと記憶している。

一生懸命やっていても、お客さまの前ではその必死さが前面に
出てはいけないということだ。
それが「銀座・和光」が「銀座・和光」である所以なのだ、と思った。

これは、全てのサービス業にも同じではないかと思う。
もちろん、ロ・ヴーでも。

「初めてご来店のお客さまで質問の多い方」には小さな緊張感
が走る。
質問の内容が多岐に渡るとき、その質問に答えながら考える。
「この方は、どれくらい詳しくお知りになりたいのだろうか」
ただ単純に聞いてみただけの場合と、いろいろと知りたくて
かなり詳しい説明を求めている場合とでは、こちらの答え方も
まるで変わってしまう。
ましてや、ご年輩の男性のお客様となればなおさらだ。

社会人としても人生のうえでもの大先輩に、どのようにしてお話を
進めていくべきか。
普段はガラスの破片のようにバラバラに散らばっている知識を、
美しく光に輝くステンドグラスを作るように、一つ一つ丁寧に組み
合わせていかなければならない。

先だって、落ち着いた雰囲気の紳士が来店された。
さしずめ、エルガーの「威風堂々」といった趣だろうか。

質問なさるのがとても上手だったので、こちらもついつい「初めての
お客さまにも関わらず少々しゃべりすぎたかな」と一瞬不安を感じない
でもなかったが、逆にこちらもたくさんのことを教えていただいた。
主にお茶のことが中心ではあったものの、お茶以外のことも、だ。
全く以て紳士然としていらして、こちらの下手な説明にも始終
穏やかな物腰だった。

お帰りになる際「いろいろ勉強になりました。また来ます」と
おっしゃって名刺をおいていかれた。
名刺を見て、ご来店からお帰りまでを振り返り、なるほど、と納得。

カウンターの後ろで小さくしゃがんでいる私を見てボスが聞いた。
「何やってんの?」
「穴に入っているんです」と私。

『仕事は水鳥のごとく』
まだまだ道は遠いようだ。

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